『写真』撮ってもらいたいんだけど

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    おとじろうの娘の自宅出産体験記

    『写真』撮ってもらいたいんだけど

    おとじろうに『写真』撮ってもらいたいんだけど」とめい。「いいよ」と私。「いいカメラ欲しいんだよね」とめい。「よし、じゃぁ、オトジが出産祝いに買ってやるから、カメラは自分で決めろ」と私。「赤ちゃんが出てくるとこを撮ってね」とめい。「いや、それはいやだわ。なんで?」と私。「だって私も見てみたいもん」というめいの屈託のなさにあきれつつ、カメラマンを命ぜられたのは、出産の1ヵ月ほど前の事でした。

    ...

    20年以上前、めいがりかこのおなかにいることが分かった時に、なるべく自然な形で出産にしたいと考え、図書館で「水中出産」など、本をいっぱい借りて読みましたが、当時の旭川では、そんな風に考える人は少なく、「とにかく立ち合いができる病院」を探すのがやっとでした。そして、65歳の助産師さんが自宅の一室を分娩室にした渡辺助産所と出会いました。陣痛が始まり、助産所に着いたとたん破水し、渡辺さんに「あんた拭いときなさい」と言われたり、隣のベッドで仮眠をとる渡辺さんのいびきに「なんか起こすの申し訳ないね」と話したり、「あんた、おなか押して」「あー、もういいわ」「あー、そんな汚い手で触るんでないの」と怒られながらも、生まれ出て泣き叫ぶ我が子に「大丈夫、大丈夫、怖くないよ、怖くない」と、何度も声をかけ、渡辺さんがいなくなってから3人で過ごした夜明け前の神聖な時間は、今もしっかり覚えています。だから、めい達の「自宅での出産」というワクワクする出来事に、『役割』をもらったことはとても嬉しい事でした。

    めいの陣痛が本物だとわかり、助産士の高槻さんを待ちつつ、りか子とじゅんきが湯本家で出産の準備している間に、めいが選んだsonyのカメラをヤマダ電機で買ってきました。めいは時折来る陣痛に顔をゆがませながら、「赤ちゃん生まれるとこ撮ってね」と言います。「いや、だからそれは無理」「なんで?」「だって、恥ずかしいもん。」と答えながら、めいが入った後のお風呂に入ることにしました。裸でお湯につかりながら「恥ずかしいってのはやっぱだめなんじゃないか。めいも希望してるんだし」と突然思い、お風呂を出るとすぐ「よし、俺撮ってやる」と宣言しました。

    湯本家は、台所の他に、リビングとその奥の部屋が主な生活の場となっていて、今回はカーテンで仕切られたその奥の部屋が分娩室になっています。赤ちゃんがまぶしくないように、ローソクが一本立っているだけで、明かりが足りないから動画は無理だとわかり、高感度撮影に設定して写真を撮ろうと思い、あわてて取扱説明書を見ながらのカメラのお勉強を始めました。

    カーテンの向こうからは、めいの「痛い〜、もう無理〜。なにこれ〜」という叫び声が聞こえます。りかこのためにビールを持ってきたりかこの弟が「めいが赤ちゃんを産むなんて、それだけで感動だ」と、突然泣き出しました。めいとじゅんきと高槻さんの邪魔をしないように、本当に出産の時だけ中に入ればいいと思っていた私も、様子を見ておこうとカーテンをめくりました。すると、めいはスクワットの態勢でじゅんきに抱きつき、じゅんきは立ち膝でそれを受け止めながら、「はい、だいじょうぶ。だいじょうぶだよ〜。こつぶも生まれたがってるよ〜」と、ぴっぱらで子ども達に声をかけるように励ましていました。私は、せいぜい手をつなぐか、「ヒーヒー、フーフー」と一緒に呼吸をしながら話しかけるぐらいしかできませんでしたが、寄り添うという意味ではこれ以上ない体勢です。そして、重力を利用した一番産みやすそうな体勢に思えました。

    それからは、私もろうそくのあかりの中、一緒に彼らの頑張りを見守ることにしました。「早く会いたいよ〜、早く抱きたいよ〜」と、めい。「もうすぐだよ。もう会えるよ」と、励ますじゅんき。「あっ、なんかわかった気がする。こつぶに合わせればいいんだ」とめいが言った時、高槻さんが「ほら、これ頭だよ」と言い、めいも手を伸ばし「あっ、これ!わかった!」と叫びましたが、高槻さんが「それ、私の指」と言いました。

    私は、録音機のスイッチを押し、いよいよカメラマンとしての本番に備えます。「誰が受け取るの?」「じゅんきに受け取ってほしい」とめいが言っていると、頭だけが出てきて、口を開け「おんぎゃー」と泣きました。私は、必至でシャッターを押しましたが、暗いは、揺れるは、じゅんきと高槻さんが邪魔だわで、撮れてるのか撮れてないのかわかりません。それでも、へその緒がつながったまま抱きしめるめいと、寄り添うじゅんきのスリーショットとタオルにくるまれる赤ちゃんが、しっかり目を開けてこちらを見ている顔のアップは、我ながらよく撮れたなと思います。

    ろうそくの明かりの中、じゅんきが寝ながら胸に赤ちゃんをのせ、ほっとした様子で見ているめい達に「ほんと、ご苦労様でした」「あんたらえらい」「赤ちゃんの初抱っこは、明日にします」と、心の中で言い、静かに帰ってきました。車の中で、「ローソクの明かりは、赤ちゃんにとって安心なのかもね。あんまり泣かなかったし、目もすぐ開いたね。みんなに見守られての自宅での出産って、ほんといいもんだね」とりか子と話をしていました。

    出産3週間ほどして、めいが「そういえば、私、あの時の写真見ていない」と言うので、みんなでパソコンの前に座り、上映会をしました。そして、そこには、朝駆けつけた時の私達の写真から湯本家を出るまでの貴重な一日が記録されていました。が、出産の最中の写真は、暗い中怪しい儀式をしているようで、「みんなには見せられないね」とめいが言いました。そして、めいがきっと感動するだろうと思っていたその瞬間の写真は、めいの大きなお尻の方がインパクトが強すぎて、沈黙の後、全員が大爆笑をしたのでした。チャンチャン。
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