豚丼とビールと新しい命

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    娘の出産

    豚丼とビールと新しい命
    りかこ記

    来たよ、来たよとにゅるっと顔が現れた。なんてきれいな顔なんでしょと思っているうちに、全身が出てきて、二人が受け止め合っている。おちんちんついてる!という声が聞こえてきた。どうやら無事に産まれたよう。
    朝7時半頃、「明け方3時頃から陣痛が始まった」と電話が入った。もう10分間隔だというのでこれはすぐ行かねばと焦った。今日は小ぴ。先ずはかわごんに事情を説明し、一日をかわごんが引き受けてくれた。有難いな〜と思いながら湯本家に音次郎と向かった。車に乗りながら色んなことが頭を駆け巡る。朝ドラ最終回なのに...今日の小ぴ大丈夫かしら?ひょっとしたら小ぴ始まる頃に産まれるんじゃない?とか。着いてみると、本物の陣痛じゃないかもしれないからもう少し様子をみることにしたという。なんだなんだ焦って損したわ〜。じゅんきがお休みの分、小ぴに励みましょう!と気持ちを切り替え家に戻った。

    お昼頃、二人が現れた。ずっと10分間隔の陣痛が続いているという。気が紛れるならここにいたらいいさ。お母さんたちと談笑するめい。こどもと遊びながら、なんだか落ち着かない感じのじゅんき。飯炊き名人が炊いてくれたご飯を感激しながら食べ、時々「イテテ」としばらく痛みに耐えてはまたおしゃべりを繰り返すめい。そんなことをよそに、小学生達は遊んでいる。こどもやお母さん達と外で過ごしている娘を見ながら幸せなお産だな〜と思う。夕方近くなりいよいよ痛みも本格的になり自宅に戻る二人。

    小ぴが終わり、晩御飯の材料を持って湯本家へ向かう。さてさてこれからどうなるのか、少しドキドキしてきた。明日は満月らしい。やはりこんな夜に新しい命は産まれて来やすいのか?湯本家に着くと、めいはまだ余裕ある表情。先ずはご飯の準備にとりかかると、助産師の高槻さんが現れる。ちょっとほっとする。めいの状態を診て「まだしばらくかかるから焼肉でも食べてきたら?」というアドバイスにびっくり。半分行きかけたがなんとなく時間が過ぎてしまった。結局家で食べることになり、音次郎と買物へ。豚肉と生姜を買って豚丼じゃ〜。急いで作って、さあ召し上がれと一口入れたかどうかというところでもうだめだと布団に向かう。ついにきたかと思うにつれ、めいの声が大きくなり、騒がしくなって行く。めいらしいな〜。お産は半端ない痛みだから、それを乗り切る方法を見つけておいた方がいいよとアドバイスしたが、そんな話には耳を傾ける感じもない娘。なんだか脅かしているようで悪者っぽい。ひょっとしたら案外軽く乗り切るのかもと思ったりしていたが、そう甘くはないようだ。「どうだまいったか」と意地悪い気持ちが浮かぶ。ひどい母!

    痛みがどんどん強くなっているのか、叫び声がどんどんけたたましくなっている。先ずは高槻さんにお任せしよう。めいが食べられなかった豚丼を口にした。そういえばお腹がすいていたんだ。食べているうちになんだかビールが飲みたくなり、近くに住む弟にビールを持ってきてもらう。一人でビールを空けながら今週も無事終わったな〜と一息。めいの雄たけびがずっと響いている。高槻さんが「子宮口はまだ3センチ」だと告げるまだか〜。もう一本ビールをあける。ウソ〜なんでこんな時にビール飲めるのかな〜?ビールを飲むなんて思いもしなかった。めいの「痛い、痛い」の叫びが増している。そろそろか...高槻さんが調べるが「まだだね」とシビアな一言。台所に行き高槻さんに「どうですか?」と尋ねると、「まだ子宮口6.5センチです。緊張強くてなかなか開かないかも...どうしたらいいかな〜」ありゃま〜そんなに力入れすぎたら後が続かないよと心の中でつぶやく。

    叫び続けるめいを抱き抱え、「そうか痛いか、痛いよな〜。大丈夫だ、大丈夫だよ。こつぶも頑張ってるよ」と一生懸命受け止め、励まし続けるじゅんき。その介助ぶりは素晴らしい。まさに理想の夫!こんな夫がいるんだね〜。めいの力一杯の叫びと同じように、力一杯受け止めるじゅんき。なんて素晴らしいんでしょう。高槻さんがめいの足にテルミーをかけだした。思わず私もめいの体をさすりだした。高槻さんにテルミーを渡され片方の足にテルミーをかける。「太い足だな〜」とフッと笑いそうになりながらテルミーをかけ続ける。高槻さんが場所を離れようとすると「行かないで!」と叫ぶめい。これはもう私が高槻さんの助手になるしかないと高槻さんの指示で動き回わっていた。窓越しの月明かりがなんともキレイだ。

    夜中0時が過ぎた。気づくと静かになっている。いつしかめいは我にかえっようにこつぶを迎えるための態勢に入った様子。二人抱き合いながら「もうすぐだよ」と声をかけ、呼吸を合わせている。もうすぐ会える気がしてきてわくわくしてきた。20分位たっただろうか。頭がちらっと見えたと思ったら顔がにゅるっと現れた。「きた、きた、きたよ〜」さあもう少し。全身が現れて、じゅんきが受け止めた。あ〜ついに来た。やってきましたね〜、ついにこの世の中に。じゅんきとめいで喜びに浸っている。めいがイロイロと落ち着くまで赤ん坊は裸のまま、じゅんきの胸に肌を合わせて2時間ほど静かにしていた。きっと幸せだろうな〜。めいが産まれた後、親子3人で過ごした神聖な時間を思い出していた。これからこの家族も新しい時代が始まって行く。「頑張れ〜」。

    朝方4時頃、薄暗い中、自宅に戻った。「なんだか不思議な位感動しないね、どうしてだろう?」と話しながら家に着いた。お湯につかって、布団にもぐり込んだ。「やれやれ、無事終わった」。それにしても感激とか、感動とかの感情が湧かない。何故?ただそこに新しい命があるという事実だけ。
    「新しい命がそこにある」。私達夫婦の元にも20数年程前にこども達が二人やって来て一生懸命共に生きた。いつの間にか巣立って行き、私達夫婦は老いて行く。若い夫婦の下に、またこどもがやって来て必死に生きて行く。そうやって命は繋がれて行くのですね。20数年前、「こんな時代にこどもを産んでいいのだろうか」と思った。今またこんな時代にと思うかもしれないが、どんな時代も子を産んで育てるという営みはかけがえのないこと、自然なことなのだと思う。どの時代も若い人達が新しい時代を切り開いて行き、そこに希望がある。この新しい命と共に始まる新しい物語を深く深く味わって行こう。この春からぴっぱら周辺で新しい命がたくさん産まれた。この小さき人達をみんなで育んで行こう。感動がなかったと思っていたら、何日かしていろんな場面が甦ってきて、「楽しかったね〜」と夫とつぶやき、一部始終を思い出しては笑った。そんな時間を共有させてくれてありがとう。たった一人の赤ん坊が周りを幸せな気分にさせてくれ、私達親と子をまた繋げてくれる。小さな君達はなんて大きな存在なのでしょうね。

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    コメント
    理香子さん。最高、読んでいて感動しました。子供を授かるって本当に素晴らしいですね!
    • 秦坊
    • 2015/11/20 4:28 AM
    秦棒じゃなく秦坊いつもありがとう
    • otojirou
    • 2015/11/20 8:40 AM
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